知里真志保『アイヌ民譚集』メモ

昭和10年知里真志保アイヌ民譚集』後記。

著者が一高に入った当時同級生から「熊の肉や鮭の肉を主食として育った君がこちらへ来て米の飯ばかり食べていて体には何ともないか」「口辺に入墨をした娘を見慣れた眼に、日本娘はシャンに見えるかい」と言われた。

今で言うステレオタイプな質問。

アイヌ生活やアイヌ民俗といえばそれは過去のアイヌのもので、現在のアイヌは日本に同化していると著者は書く。

新聞の「アイヌ盗む」「旧土人自殺す」のような書き方は差別観念を広めている。

今のアイヌは「新しいジェネレーションは古びた伝統の衣を脱ぎ捨てて、着々と新しい文化の摂取に努めつつあるのである」。

著者でさえ父母がアイヌ語を使うのをほとんど聞いたことはなく、一高に入ってから意識的に学び始めた。

「婆さんたちもパナンペ説話ならまだまだ幾らでもあるといいながら、もはや思い出すことさえできないほどに忘れ果てている。私は決してそれを悲しむものではない。反対に暗い陰に包まれている古い伝統を忘れ去って、1日も早く新しい文化に同化してしまうことが今ではアイヌの生くべき唯一の道なのであるから。」

これが昭和10年の感覚。